アトピー性皮膚炎Atopic Dermatitis
アトピー性皮膚炎とは、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な皮膚疾患です。
一般的に乳幼児期や小児期に発症することが多く、成長とともに症状が軽減することが多いですが、成人型へと移行する場合や成人期に初めて発症することもあります。本人または血縁者に気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患がある場合、発症しやすい傾向があります。
アトピー性皮膚炎の主な症状
- 対称性の痒みを伴う湿疹
- 急性期は紅斑(赤み)、丘疹(ぶつぶつ)、びらん(ジュクジュク)
- 慢性期は苔癬化(皮膚がゴワゴワする)
- 重症では痒疹(かゆみの強い丘疹、結節が多発)
- 湿疹が繰り返しできる部位の色素沈着
- 全体的に皮膚は乾燥しやすい
アトピー性皮膚炎の原因
アトピー性皮膚炎の原因は多岐にわたり、アトピー素因を持つ体質や皮膚のバリア機能の低下が関係しています。アトピー素因とは、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を有していること、またはIgE抗体をつくりやすい体質であることを指します。IgE抗体はアレルギー反応に深く関与する抗体で、花粉やダニ、ペットの毛などの特定の物質に対して過剰な免疫反応を引き起こします。
皮膚炎が悪化する原因には、治療の不十分さに加え、ダニやホコリ、動物の毛、アレルゲン、温度や湿度の変化、飲酒、感冒、精神的なストレスなどが複合的に影響します。
当院では、アレルギー症状を引き起こしやすい39種類のアレルゲンを、採血検査で調べることが可能です(保険適応)。
アトピー性皮膚炎の診断基準
以下の3項目を満たすことが診断の条件となります。
- かゆみ(そう痒)
- 特徴的な皮疹とその分布:急性期の紅斑や丘疹、慢性期の苔癬化病変、左右対称の湿疹が特徴です。特に乳児期には顔や頭部から始まり、幼小児期では頸部や四肢屈曲部、成人期では上半身に症状が現れやすいです。
- 慢性・反復性経過:乳児では2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上の期間を経たものが慢性とされます。
アトピー性皮膚炎の治療について
01.ステロイド外用薬
炎症を抑える最も有効な薬剤で、強さにより5つのランクに分類されます。軟膏、クリーム、ローション、テープ剤があり、症状に応じて適切に使用します。正しく使用すれば全身性の副作用はほぼありませんが、局所的な副作用(ニキビ、皮膚萎縮、毛細血管拡張など)が生じることがあります。
02.非ステロイド性外用薬
- ●免疫抑制薬タクロリムス軟膏
- T細胞の活性化を抑制し、炎症性サイトカイン(IL-2など)の産生を抑えることで、皮膚の炎症を鎮めます。塗ると、かゆみやヒリヒリするなどの刺激が生じますが、皮膚の状態がよくなると次第に軽減します。
- ●JAK阻害薬デルゴシチニブ軟膏
- 2020年からアトピー性皮膚炎治療薬として登場したJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬。JAKは、炎症や免疫反応を引き起こすシグナル伝達に関与する酵素です。デルゴシチニブはこのJAKを阻害することで、炎症の原因となるサイトカイン(IL-4、IL-13、IL-31など)の働きを抑え、皮膚の炎症やかゆみを軽減します。
- ●PDE4阻害薬ジファミラスト
- 2022年に登場したアトピー性皮膚炎治療薬です。PDE4(ホスホジエステラーゼ4)は、炎症を引き起こす物質を増やす働きを持っています。ジファミラストはこのPDE4を阻害することで、炎症を抑え、かゆみや赤みを軽減します。炎症を抑えるだけでなく、皮膚のバリア機能を強化する作用も期待されています。
- ●AhR調整薬タピナロフクリーム
- 2024年に登場したAhR調節作用を有する新しい外用薬です。アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬における皮膚の炎症を抑制するとともに、皮膚バリア機能を改善させることが示唆されています。効果が出てくるのは比較的ゆっくりですが、乾癬やアトピー性皮膚炎の慢性治療に期待されています。
03.紫外線療法
ナローバンドUVB療法は、紫外線の中でも有害な波長を除き、治療効果の高い特定の波長(311nm)を使用する安全な光線療法です。特定の紫外線を皮膚に照射することで、免疫の過剰な働きを抑え、かゆみや炎症を軽減します。
治療は通常、週に1~2回の頻度で行われ、1回の照射時間は数十秒から数分程度です。当院ではDaavlin7という三面鏡型の紫外線治療装置を採用しています。立位のまま半身ずつ紫外線を照射できます。
04.内服治療
- ●抗ヒスタミン薬
- 抗ヒスタミン薬はアトピー性皮膚炎のかゆみに対して用いられます。通常は外用薬と一緒に使用します。
- ●経口ステロイド薬
- 症状が急激に悪化した場合や重症患者に使用しますが、長期使用にはリスクがあり通常は短期間の使用にとどめます。
- ●免疫抑制薬シクロスポリン
- 16歳以上で既存治療により十分な効果が得られない重症の方に適応があります。長期使用での安全性が確立していないので、症状が軽快したら一般的な外用療法に切り替えることが多いです。
- ●経口JAK阻害薬
- ヤヌスキナーゼ(JAK)をブロックすることによって、皮膚症状やかゆみなどを短期間で改善させる内服薬です。既存治療により十分な効果が得られない重症なアトピー性皮膚炎の方に対して適応があります。効果が高い薬ですが、適応の慎重な見極めや、使用前の検査などが必要です。
※当院では使用はできませんので、使用の際はお近くの総合病院へ紹介させていただきます。
- ●生物学的製剤
- 外用、内服治療でもコントロールが難しい重症の患者さんには、アトピー性皮膚炎の悪化因子となるサイトカインという物質をブロックすることで症状を改善させる生物学的製剤の適応があります。
- 1.デュピルマブ、トラロキヌマブ、レブリキズマブ
- 免疫・アレルギー学的異常には、2型炎症(アレルギー反応に関与するTh2細胞による炎症)が深く関係しています。Th2細胞が産生するIL-4やIL-13といったサイトカインは、皮膚の炎症、バリア機能の低下、かゆみの発生に関与することが知られています。
生物学的製剤デュピルマブは、IL-4とIL-13の働きを抑え、トラロキヌマブやレブリキズマブはIL-13を標的とすることで、2型炎症を抑制します。これにより、炎症が鎮まり、かゆみや皮疹の改善が期待できます。
- 2.ネモリズマブ
- IL-31というアトピー性皮膚炎のかゆみを誘発するサイトカインをブロックし、かゆみを改善させます。かゆみがメインのアトピー性皮膚炎に有効です。
アトピー性皮膚炎は体質と環境要因が関与する慢性的な皮膚疾患です。適切な外用薬や内服薬、紫外線療法を活用し、症状のコントロールを目指しましょう。大阪市中央区の堺筋本町しらとり皮ふ科では、患者さん一人ひとりに合わせた治療を提供し、症状の改善をサポートしています。アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、ぜひご相談ください。